最期の色

文/橋本貴美子
フラワーアレンジメント/芳谷里佳

 深まりゆく秋、色づく木々の葉の落ちゆく様を見ていると思い出すことがあります。それは、昨年その生涯を閉じられた恩師のこと。
 先生は、私が13際から17歳という多感な時に美術担当の教鞭を執っておられました。先生の授業はそれは面白く、京都や奈良の歴史的な建造物や作品群の鑑賞法を、まるで漫談の様な調子で教えてくださるのです。私と親友はとても可愛がっていただき、在学中は美術部に在籍。作品は七宝焼きのブローチ一つですが、茶話会の様な放課後を過ごしたものです。
 卒業後も年賀状のやりとりは続き、私の結婚祝いにも来てくださいました。
 しかし一昨年、お見舞に駆けつけないようにという条件つきで先生が癌にかかっている知らせが届いたのです。1度は命を取り留められ、年明けにお会いした際、画集を作成中だと話されていましたが、それは先生の命のカウントダウンのはじまりでした。
 ある曇った日に私は神戸の人工島に浮かぶ病院を1人で訪れました。涙が出そうなのを必死でこらえる私に「貴美なぁ、これはしゃぁないねん。誰にでも訪れることや。早いか遅いかはあるれど、順番やから仕方ない。僕が少し早いだけ」。その時に握った先生の手は確かに温かく、そこに人生を丁寧に大切に生きてきた鼓動を感じたような気がしました。
 こんなにも人は死と直面し達観できるものなのか、私の順番が回ってきた時に果たしてどうなのだろう、疲れ果て召されるのではく、先生のような潔さを持つべく大切に生きていたいと……。
 1周忌を迎える頃、お宅訪問のお誘いの電話がありました。あの画集は海外の街角が描かれた絵葉書とともに、無くなられたその日に印刷されてきたそうです。それをご本人が弔問客に配るようにと指示されていたのだとか。先生は人生の最後においても大切なことを教えてくださいました。
 悲しさも感じる落ち葉ですが、最後に美しく色づき、次なる命へのつながりを知らせてくれるようにも思います。今年の紅葉はその微妙な色具合に、散る様にもより深みを感じたいものです。

 
今月のアレンジメント

花材
紅葉した葉(ファーガス)、木の実(ヒペリカム)、吾亦紅

ポイント
今回は深まる秋をイメージして、紅葉した葉と木の実でコラージュした額を作成しています。秋を生活のなかでも実感できるように、玄関、コーナースペースなど、小さなスペースの一角にこうしたものをインテリアとして取り入れてみてはいかがでしょうか。
額に木の葉を貼る場合、1色でまとめても、今回のように2色をアレンジしてもきれいなものになります。木の実を飾る場合は筒状のものを取りつけるようにしてください。木の実はあまり重くないものを選ぶとバランスもよくなります。
 
橋本貴美子
エッセイスト。毎日放送勤務の傍ら、料理やフラワーアレンジメントに関するエッセイを執筆中。昨年度『りぶる』で紹介した遊学中のメンフィスでの思い出とミートロールのレシピが好評。今月からスタートする本コーナーでは毎月、花をテーマにしたエッセイを連載。

芳谷里佳
フラワーコーディネーター。フランス・ピヴェルディ校にて、フラワーアーティストの研修に参加。その後オランダ、ドイツのフローリストに師事。現在はウェディング、パーティー、レストラン装花、空間装飾を手掛ける。ヨーロピアンアレンジメント教室も開設。

撮影・インプレス 鈴木雅之