雨の日の美術館

文/橋本貴美子
フラワーアレンジメント/芳谷里佳

 梅雨は鬱陶しく、出掛けるのが面倒になる季節です。でも敢えて、美術館などに出掛けてみてはいかがでしょう。そもそも絵画などの保全のため、館内は外光から閉ざされており、一旦入ってしまえば、そこは静寂というオアシスです。特に岡山県倉敷市にある大原美術館は、しっとりした雨が似合うように思われます。
 ここは倉敷を基盤に活躍した豪商・大原孫三郎が昭和5年に設立した私立美術館。駅からは少し距離があり、エリア内でも館から館へ移動しながら鑑賞するスタイルをとっているため、展示品のみならず、其々の建物が持つ雰囲気を雨模様がより演出し、なんとも平和的な心地よさを感じるのです。
 本館正面玄関脇に構えるロダン作「カレーの市民」。雨粒の動きに誘われ、その黒い物体が今にも歩き出しそうに感じるのは私だけではないはずです。
 アテネの神殿にも似た建物に吸い込まれ、所蔵作品の中でも鑑賞人気が高いエル・グレコ作「受胎告知」に至るまで、幾つもの素晴らしい作品に出会うことが出来ます。そして、展示室から展示室への通路窓より見える雨景色に、今見た作品の陰影を頭の中にきっちと刻印することを勧められ、しばし足を留める事を余儀なくされることでしょう。また、工芸館は、内装までもが作品と一体感を成し、石木の湿った感じが沈黙を与えてくれます。
 晴天の日には観光客で賑わい他人の会話が自然と耳に入り、喧騒を隠せない美観地区ですが、静かな雨が打つ石畳や白壁にその素顔とやっと出合えた事を実感されるのではないでしょうか。
 帰宅後の部屋では飲み物などを戴きながら図録鑑賞、傍らにこの様なお花があると贅沢なヒーリングタイムとなることでしょう。

 
今月のアレンジメント

花材
トルコギキョウ、カーネンション(紫)、矢車草、ホワイトレースフラワー、ユーホルビア、ブプレリウウム、レモン

ポイント
全体を半球体になるように花材を生けていきます。白い花が多いので、カーネンションや矢車草などアクセントになる色の花はバランスをみながら生けるようにしてください。花器に使用するアイアンのバスケットにはレモンを半分に切って入れます。こうすることで、雨のなか外から部屋に帰ると、気分がスッとする香りが楽しめます。
 
橋本貴美子
エッセイスト。毎日放送勤務の傍ら、料理やフラワーアレンジメントに関するエッセイを執筆中。昨年度『りぶる』で紹介した遊学中のメンフィスでの思い出とミートロールのレシピが好評。今月からスタートする本コーナーでは毎月、花をテーマにしたエッセイを連載。

芳谷里佳
フラワーコーディネーター。フランス・ピヴェルディ校にて、フラワーアーティストの研修に参加。その後オランダ、ドイツのフローリストに師事。現在はウェディング、パーティー、レストラン装花、空間装飾を手掛ける。ヨーロピアンアレンジメント教室も開設。

撮影・インプレス 鈴木雅之