母たるもの

文/橋本貴美子
フラワーアレンジメント/芳谷里佳

 昨年の晩秋、母に癌の診断が下されました。
 「私が倒れたら、皆もありがたさが分かるわよ」と、ふだんから冗談交じりに笑顔で話していた母でした。
 たしかに、物心がついてからというもの、母が入院したのは弟を産んだ後に元々弱かった腎臓を痛めたときくらいでした。私ならここぞとばかりに寝込んでしまうような体調でも、弱音を吐かずに頑張る人でした。
 決して強靱な体というのではありません。「家族のために、倒れるわけにはいかない」という気力だけで大抵の病原菌を遠ざけ、病を払いのけてしまう“気迫”の持ち主というだけなのです。
 当初、癌がどの程度進行しているのかが分からず、家族全員が衝撃を受けました。もちろん、ショックは母が一番大きかったはずですが、日ごろは言いたいことを言い合うにぎやかな家族は、異様なほどに気を遣いあっていました。
 それまで、多少の熱が出ても寝込まなかった母。そのわけが、40歳を前にしたその時に初めて分かりました。
 私は高齢出産でした。何も疑うことなく、私を信じて眠る幼いわが子。その寝顔を見ていると「長生きしてあげないと……」と思わされます。私は自分ひとりのものではなくなっている。誰のためでもなく、ただこの子のために生かされているのだと、強く感じるのです。
 寝込むことのなかった母……。母という存在、その心のうち、そういったものを初めて共有できた気がしたのです。
 人は、その立場に立ってみなければ、本当の意味で相手の気持ちは理解できないものなのでしょう。それでよいと思います。互いの考え方、感じ方に違いがあるからこそ、人と人との関わりは興味深いものなのかもしれませんから。
 幸い、母は術後順調に回復しています。今年の母の日には、いつもよりたくさんの赤いカーネーションを送ろうと思っています。

 

今月のアレンジメント

花材
スプレーカーネーション、山こけ

ポイント
母の日に贈る花として広く用いられているカーネーション。今回はこのカーネーションを球体のオアシスに生けてアレンジメントをつくってあります。
カーネーションは茎を短かめに切り、オアシスにすき間なく挿していきます。植木鉢にもオアシスを入れ、表面は山こけで覆い、木の枝に挿したアレンジメントを立てて全体のバランスを整えます。ポイントはアレンジメントに対しての植木鉢の大きさ。写真を参考に完成をイメージしてオアシスと植木鉢を選ぶようにしてみてください。

 
橋本貴美子
エッセイスト。毎日放送勤務の傍ら、料理やフラワーアレンジメントに関するエッセイを執筆中。昨年度『りぶる』で紹介した遊学中のメンフィスでの思い出とミートロールのレシピが好評。今月からスタートする本コーナーでは毎月、花をテーマにしたエッセイを連載。

芳谷里佳
フラワーコーディネーター。フランス・ピヴェルディ校にて、フラワーアーティストの研修に参加。その後オランダ、ドイツのフローリストに師事。現在はウェディング、パーティー、レストラン装花、空間装飾を手掛ける。ヨーロピアンアレンジメント教室も開設。

撮影・インプレス 鈴木雅之


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