元気になった河野元外相「このままでは日本が心配だ」

 君子は本を務む、本立ちて道生ず  (論語)

 立派な人間は根本を大切にする。根本が定まって初めて
 道が開かれる。孔子の弟子の有子の言葉。


 最近、河野洋平元外相の地元小田原の知人から「河野さんが元気になった。政治への情熱は旺盛だ。もう一度何かやりそうな気がする。孝行息子からもらった命を燃やす時が来たと思っているのではないか」という話を聞いた。
 河野氏は70年代に金権政治への国民の批判が高まった時、自民党を離党して新自由クラブを結成、政治浄化の戦いを起こし政界に大きなインパクトを与えた。90年代には野党になった自民党の総裁として自民党政権を復活させた。2003年、小泉政権は行き詰まりつつある。健康を回復した河野氏の動きが注目される。1月27日河野氏を訪ねて時局観をきいた。

「擬似民主主義」の危険
---河野さんは今の小泉政権の政治を比較的客観的に見てこられた。最近の政治をどう思いますか。
河野 とても心配だ。小泉内閣の政策について、国民に対する説明が足りない。何が本当に重要か、焦点が定まっていない。経済が戦前の昭和恐慌以来の深刻な状況にあるのに、首相官邸は真剣に考えていないのではないか。
 20年前の中曽根総理の時代にもあったが、審議会や諮問機関が多過ぎる。そこで答申が出来上がると、それがあたかも民意であるかのごとく扱われる。疑似世論がつくられる。とても国民の声とは思えないようなものが出て来て、連立与党の力で国会を通過してしまう。疑似民主主義だ。本当に心配だ。
---有事立法のような国の根幹にかかわる法律も、国民が十分に知らないままに作られてしまうのでは?
河野 有事立法については、2つ問題がある。ひとつは、有事立法は平時のときに十分に議論を尽くして制定すべきもので、政府もイラクや北朝鮮の状況を利用するのではなく、十分慎重に法案を作り審議を尽くす必要がある。第2に、有事法制の根幹が「非常時に国のトップに権限を集中する」というもので、多くの国は憲法で規定している。極端な言い方をすれば、憲法改正に匹敵する事柄だけに、きちんと国民が納得する必要がある。
 今国会には146本の法案が出ている。これらの法案を、小泉内閣の支持率が高いうちに与党の力で通してしまおうとしているように見える。国民の理解を得るように時間をかけるべきだ。
 イラク問題について小泉内閣は、今日までのところ、明確な態度を示していない。フランスもドイツも、中国もロシアも、それぞれの国の基本的立場を明確に表明している。日本政府だけが曖昧だ。政府としての原理原則が不明のまま、マスメディアが誘導する世論によってひとつの方向へと流されていく。テレビがつくり出す流れに政治は抗し切れずに押し流されていく。日本政府として「平和を守る」という明快な姿勢を打ち出す必要があるのに、やっていない。これも非常に心配だ。

日本には日本の流儀がある
---河野さんは外相時代、米国に対してもはっきりと主張していました。米国の外交政策をどう思いますか。
河野 私が2年前に外相を辞める直前、最後の訪問国を米国にした。パウエル国務長官との会談が主な目的だった。私はパウエル長官に対し「米国は多国間の国際協調をつくることに熱意が足りないのではないか」と申し上げた。いろいろな国際的合意や国際組織からの離脱の動きが顕著に見られたため、もっと国際協調を真剣に考えるべきだ、と要請した。
 米国は世界の多くの声に背を向けている。最たるものがイラク問題だ。今、世界各国は米国の独走を食い止めるため努力しているが、日本は自らの意思をはっきりさせようとしない。これではあまり主体性が感じられない。
 国際紛争は武力で解決しない---これが日本の基本的スタンス。それなのに小泉政権は米国が何をしても米国を手伝う方向へ動いている。これは大きな間違いだ。日本は戦争をしてはいけないということを、明確にしておくべきだ。
---今の小泉内閣の経済政策はブッシュ政権の言うがままです。このままでは日本経済がつぶれます。
河野 今盛んに喧伝されているグローバリゼーション---米国流ルールを世界のルールにして一元化すれば便利になるという主張に対して、最近、世界の中で「ちょっと待ってくれ」の声が強まっている。
 日本の商売の流儀は、私の先祖でもある二宮尊徳が言ったように「商法は売りて悦び、買いて悦ぶ様にすべし」。共存共栄だ。米国の商売のやり方とは違う。政府は盛んに失業対策だ、セーフティーネットだと言っているが、政府がまず何よりも先に考えるべきことは、まっとうな努力をしている企業や商店を潰さないこと。これが政府の役割だ。小田原や平塚の「銀座通り」と言われる商店街でも、昼間からシャッターが降りたままの店が目立つ。深刻な状況だ。小泉政権のやり方は間違いだ。このままでは日本が危うい。


経界界(2003年2月25日号より抜粋)