疲弊が目立つ地方経済=河野
構造改革最優先は失敗=岩見
岩見 21世紀のはじめの年ということで今年は明けましたが、テロをめぐる色々な問題があり、政治的には、森さんから小泉さんにバトンタッチしたあたりから変調をきたし、政治がよくなったかどうか必ずしもはっきりしませんでした。
河野 今年の変わり方には驚きましたね。森さんが退陣した4月下旬までは混乱の中でもこうなるだろうと見当がつきました。しかし思いもかけないような問題が次々に起きてその対応に追われ、日本の将来をどうするかといったことについて、印象には残りませんでした。森さんの掲げた目標は具体的にはIT 社会を創るというものでしたが、国民に理解されないうちにえひめ丸事故など 次々と問題に直面して退陣せざるを得ませんでした。
岩見 布陣からするとまともな内閣ではあったのですがね。

野党・マスコミ のチェック不在

河野 中曽根さんも言っているように骨格のしっかりした内閣でしたね。それに比べると小泉内閣は女性閣僚を登用するなどマスコミの目を引くというか、パフォーマンスは色々やりましたが、本当に仕事をする可能性は、森内閣の方が党内に足場もありましたし経験者も多かったですね。たとえば行政改革についても橋本元総理の方が経験豊富だし仕事もやれたはずです。
岩見 森さんはマスコミ受けが悪すぎましたね。不器用な人なんですね。小泉さんは政権について7カ月になりますが、評価はなかなか難しいです。大衆迎合主義者と言っては言い過ぎかもしれませんが、大衆の心をつかむ術は先天的な才覚を持っていることは事実ですね。マスコミとのハネムーンの半年過ぎても支持率もほとんど衰えません。
河野 小泉人気の一つに、たとえばハンセン氏病について司法判断を超えて政治判断を下したことがあると思います。苦しんでいる大勢の人たちを考えてこれ以上、国が先送りしてはいけないと小泉さんは決断したのでしょう。他の首相なら司法への国民の信頼ということから別の判断を下したかもしれません。この点、小泉さんらしいところが出ました。

岩見 戦後27人目の総理大臣ですが、今までにない熟慮型ではなく直感的な政治家ですね。
河野 こんなにチェック機能を果たす、いわば敵のない政権はない。今までの自民党政権には必ず社会党がいました。しかし今の民主党は野党としてチェック機能を果たしていません。その上、メディアもチェックが甘く目下のところ、誰からも批判されずに進んでいます。靖国問題にしてもこれまでの異論を突っ切って進みました。
岩見 そのあたりのハンドルさばきがうまく、野党も取り込んでいますね。
河野 皮肉なことに小泉さんの支持率は、自民党を批判することによって高くなっています。

憲法で答弁に窮し たら総理失格だが
岩見 しかし、追い詰められてくるとまた考えるでしょう。記者席でも自衛隊派遣と憲法との絡みで、最終的に憲法との一貫性を求められたら答弁に窮すると発言したときは、これは政局になると皆思いました。総理大臣が憲法に関して答弁に窮したのでは国は成り立たないし、ずいぶん正直におっしゃるなあとギョッとしました。あれで収まれば民主党は厳密な意味で野党ではないですね。総理として言ってはならないことのけじめがなくなりましたね。我々が今まで見てきた内閣とスタイルが大分変わりましたね。
河野 現在外務省がまったく機能していないことから、外国の考えていることが正確に入ってきていないと思いますね。今考えなければならないことは、9月11日のテロ事件から世界は変わったとブッシュ米大統領が演説し、小泉総理もそう言います。確かにアメリカにとっては、あれ以前はいい世界だったのに、あの日からそれまで通りにはいかなくなってしまったと思っているでしょう。小泉さんが、だから、我々は憲法や自衛隊法に縛られたり、自衛隊が行動を抑制されていてはいけない。今までの議論と異なった角度の世界観を持とうと言っていてよいのでしょうか。確かにアメリカにとっては都合のいい世界だったですよ。冷戦が終わって一極支配となり、経済もグローバリゼーションの波に乗って席巻し、WTOもうまくいけばアフリカからアジアまでアメリカ流のビジネスができるわけです。アメリカの情報産業は一人でどんどん走っているのです。
岩見 確かにあの日からすべてが変わったわけではないですよね。
河野 イスラム世界との関係も、クリントンさんはキャンプ・デービッドでイスラエルとパレスチナの首脳と合宿して和平合意に向けて仲介の労をとりましたし、各々の文明はグローバリゼーションの動きの中で個性や文化を大事にしようという努力はしました。しかし残念ながらイスラエル、パレスチナ問題の解決の糸口も見つからず、さらにブッシュさんの登場で、イスラエルへの肩入れが目立ち、イスラム世界に対しての理解が示されず、対米不信感や貧困や飢餓から絶望感が溜まっていたように思います。9月11日というのはもしかしたらまさに極限にあったのではないかと思うのです。こうした議論がなされずに自衛艦を出して補給をしなければと言う話が先行して根源的な議論が置き去りになっているのはまことに残念なことです。
岩見 非常に単純思考で、深い分析や発想が感じられませんね。
河野 あのテロでは確かに日本人も20数人が犠牲になりましたし、我々が何もしないでよいという訳ではありません。だからと言ってアメリカについて行くだけでよかったかもう一度考えてみる必要があります。他方アメリカと一緒に行動したために、日本が営々と積み上げてきた中東諸国との良好な関係まで壊し、事件以後特使や大臣を派遣しても所詮アメリカの使いとしか受け取られなかったでしょう。「ショー ザ フラッグ」が大分議論になりましたが、言ってみれば白か黒かはっきりさせろと言う踏絵を踏ませるようなことは決していい世界とは言えません。
岩見 最近のブッシュ大統領を見ているとまるで警察の署長のようでとても政治家とは思えませんね。自衛隊の派遣については、国連総会で宮沢元総理が行った自衛隊派遣を容認した演説に対し、小泉総理自らが「弾みをつけてもらった」と大変感謝しているそうです。日本人が殺されたのだから自衛隊を出すのは当然だと言うのは短絡的だと言う印象を持ちました。
河野 決めることはちゃんと決めておくが、その都度必ずやらなければならないことは政治家が判断することが大事なんですよと言っていましたが、抑制が効く政治家ばかりでないのが心配ですね。
岩見 一番抑制してほしい人がいきなりアクセルを踏んだと言う感じがしましたね。ところで、道路公団や医療費問題の決着振りを見ていますと、小泉改革の本質はいったい何なのかややぼやけてきましたね。小泉さんの言う公団の民営化とは、国費を使わないということを国民に示すことができたといっています。果たしてあれが改革なのか、小泉改革とはいったい何なのかわかりにくくなりましたね。
河野 ペイしない道路は作ってはいけない、が基本のようです。しかしペイするのは民間がやればいいし、ペイしなくてもどうしても必要なら国がやらなければならないはずです。

採算性だけを 言うのは暴論
岩見 採算性うんぬんだけの議論は暴論ですね。
河野 冷静に考えれば見直すべきは見直しをすればよいのに、ペイしないから止めたというのでは、地震でやられた村の道を1日数百人しか通らないからといって公がやらないのと同じです。
岩見 新規国債の発行枠30兆円を超えないと言うのにこだわって来年度予算編成にあたって取りあえず道路から3000億円やら医療報酬などあっちこっちから削り取っていく感じがしますね。
河野 何故30兆円枠にこれだけ絶対に超えてはいけないとこだわるのか、今日の景気、失業者などを見るともっと弾力性があってもよいでしょう。
岩見 ではなぜ30兆円なのか、理屈がありません。小泉流直感的政治ですかね。分かりやすく歯切れがいいし、体を張ってでもやると言えば格好がいいので拍手されますが、論理的な説明が必要でしょう。
河野 支持率を見ていると、小泉さんの主張や政策に共感しているというよりあの雰囲気を支持しているようで、政治を演出することには成功しているでしょう。しかし、長い目で見てこれでよいか少し心配です。
岩見 格好はいいけれども締まりのない政治ですね。たとえば対外政策でもひどく貧しいと思いますし、これも田中外相を起用した不幸でしょうか。もう飽き飽きしましたね。
河野 かつて内閣のマドンナと言われた扇さんも今はかすんでしまいました。

雇用対策に真剣 な取り組み必要論
岩見 ところで私も頻繁に地方に出ますが、本当に経済は疲弊していますね。
河野 まったくです。地元の小田原でも駅前のデパートが撤収することになりましたし、 とにかく景気を早く回復させなければどうにもなりません。
岩見 構造改革優先路線は失敗だとの声が高まってきましたし、亀井静香さんは小泉改革は間違っていると批判しています。かといって小泉さんの支持率に位負けして批判勢力の声も対立点がぼけてしまうし、不安材料ばかりが多い年越しになりそうですね。
河野 7日に閉会する臨時国会は「雇用国会」のはずでしたが、決定的な失業問題についての対策が充分だったとは言えません。今年は新宮さまのご生誕で閉じ、来年はサッカーのワールドカップでにぎやかになるでしょうから、何とか明るく行きたいものです。
(12月4日対談)