
| W杯サッカーの6月。日本全国はメディアの報じる限り、まさに“コーフン列島”と化した。異様な興奮の広がり、その継続の長さには、ただ驚くばかりだ▼大盛会は結構だが、いささか気になることもある▼農耕民族のせいか、古来、日本人は「羊のようにおとなしい」といわれてきた。戦争や、労働争議などはともかく、未組織の群衆が大挙して行動することはほとんどなかった。戦後は60年、70年の安保デモぐらいである▼もちろん、サッカー応援の興奮ぶりと、政治的なデモとは全く異質だが、こんなに広範な大衆行動を見るのは安保以来だ▼“羊のように”おとなしく、しかも娯楽が多様化しているはずの日本人を、かくも熱狂させた背景はなにか▼日本民族には、もともと素晴らしいポテンシャル・エネルギーがある。明治維新や戦後の混乱期、石油ショックの時など「いざ鎌倉」という時には、そのエネルギーは十二分に発揮された▼今回は、長い間の不景気や、相次ぐ不祥事で、積もりに積もった閉塞感や不満感が、日本を舞台にしたW杯サッカーを捌け口にして一挙に爆発したのではないか | ▼第一次大戦後の大不況の時期に、ドイツとイタリアでは、政治的不安と混乱の中で独裁者が登場し、第二次大戦の原因にもなった▼その欧州では、このところ右派勢力の台頭が目立つ▼残念ながら、日本人には「長い物には巻かれろ」や「付和雷同」的な欠点があることも否定できない。現在の閉塞感や政治不信と、サッカーへの熱狂ぶりを見ていると、一抹の不安も感じる。戦前のドイツなどの例は決して杞憂とはいえない▼日本はサッカーで示したエネルギーで再び興隆の道を歩み始めるか。それとも、とんでもない迷路に再び落ち込むのか。私たちはいま重要な岐路に立っているのではないか▼政治家は、日本人のこのすざまじいエネルギーを、ぜひ前向きに活用し、誘導してほしい。そういう政治家が今こそ求められている。もちろん、国民個々の自覚が第一なのはいうまでもない。 |