総選挙余録

様変わりした政界、世論=河野
催眠状態だったマスコミ=岩見



岩見 大変あわただしい政局でした。
河野 今度の解散・総選挙の結果について、私の古い友人で日本政治を40年観察してきたジェラルド・カーティス米コロンビア大教授は「戦後日本最大のターニングポイントであり、55年体制は完全に終わった」と評価しています。
 私自身は、まだ結論を出すのは早いかもしれないと思っていますが、今回について言えば、リーダーが派閥連合体のいろいろな意見の上に立って政治を進めるやり方よりも、トップダウンの小泉さんのやり方を支持する人の割合が多かったということは言えると思います。
岩見 小泉総理の解散のやり方については亡くなられた後藤田正晴さんも「ああいう解散は代議制民主主義にもとる。刺客も極悪非道だ、許せない」と怒っておられました。小泉さんも党首討論で「これは異例中の異例」と多少内心は引っかかるようでした。一連の動きについてはどう見ておられますか。
河野 歴代議長も、時の総理によって憲法7条による解散権の解釈が拡大される時もあり、どこかで幅を決める必要があると言っています。

「展望がない」と衆院解散を通告
 私はあれだけ小泉さんが執念を持って努力をされたんだから、参院で否決されたから即解散というのではなく、両院協議会で話し合うなど最後まで成立のための努力をしたらと官邸に連絡をしましたが、1時間もしないうちに官房長官から法案成立の展望がないので解散する意向との返事でした。
岩見 しかし選挙中小泉さんは国会の判断が正しいのか、国民の判断が正しいのか、それを私は聞くために解散したと言っていましたね。国会の判断が最終判断ではないでしょうか。その国会は国民が選んだのですよ。
河野 憲法には国会は国権の最高機関と書いています。それが正しいかどうかという言い方はどんなものでしょうか。
岩見 小泉さんは合憲だと言っていましたが、それは国会解散規定に沿っているというだけで、憲法全体の理念は議会制民主主義ですからね。総理大臣はその議会で選ばれているわけですからね。
河野 それにしても自民党の議席占有率61.7パーセントは池田内閣当時以来の史上第2位、公明党と併せると衆院の3分の2を制するという結果には驚きました。
 選挙を境に、自民党の中も、国民世論もびっくりするほどの様変わりです。
岩見 まあ、おかしいのは今度の参議院の採決で、同じメンバーで同じ法案を大差で可決していることですね。それと野田聖子議員が、私の政治信条は完敗したと言ったことですね。選挙で勝っていて完敗というのはおかしいでしょう。今の国会を見ていてこの頃つくづくと拓世会のことを思い出すんですよ。あの頃の新人議員と比較すると今度の小泉チルドレンはどうもねえ。
河野 黒い霧解散と言われた昭和42年の自民党 初当選は35人で、坂本三十次さんら非主流の三木派が8人で最も多かったですね。主流派の佐藤派は5人でした。
岩見 今度の新人達と違って首相官邸に押しかけて党改革を求めたりしましたね。
河野 今度の新人は小泉チルドレンと言われても怒る人もいない。それを執行部が集めて囲いこんでいます。これだけ自民党が多数になると野党がチェックできない、となれば党内でチェックしなければ権力の暴走は止まらない。そのために派閥というのは時に重要な存在だと思います。
岩見 ところが靖国参拝のあとも総務会で全く発言もない。党内は寂として声なしですよ。こういう状況は自民党50年の歴史の中でもないでしょうね。党内から何も出てこないというのは。小泉さんは自民党をぶっ壊すといいましたけれども、党内民主主義まで壊れたんでしょうかね。
 安倍さんは選挙後に、自民党候補が取ったのは組織票は1割であとの9割は小泉さんが取ったようなものだと発言しました。しかしこの次の選挙どうをやってよいかわからないと言う人もいます。
河野 そうですね。カーティス教授も今回は「小泉首相の勝利で、自民党の勝利ではない」と言っています。
 私のところは初めからそうですが、自民党の選挙が業界団体におんぶに抱っこでなくなってきたことは、政治が国民一般のために奉仕 すべきであるという面からはいいことです。
 しかし「党首のイメージさえよければ政策はまじめに考えなくても良い」といった安易な方向に流れれば、日本の政治にとっても不幸なことです。
 自民党としても、国民の声をどう吸い上げて政策化していくか、そのことを地域の党活動とどう結びつけていくかといった地道な努力をしなければ、将来大きなしっぺ返しを受けると思います。
 また、今度の選挙の結果、自民党が過半数となり公明党の存在が軽くなるという人がいますが、自民党一人一人の公明票への依存度はまた高くなりましたね。
岩見 それと、その後の調査結果を見ると、TVを長く見た人が自民党に入れたといいますね。
河野 自民党の刺客報道をするため他の党を一寸出すだけですから、TVを見ていれば自民党に入れますね。
岩見 マスコミも催眠術にかかっていると言われました。なんか小泉さんの前にみんなひれ伏している感じでしたね。
河野 やはり考えなければいけないのは、小泉さんが「郵政民営化」一本槍で、政策全般について「説明不足」のまま国民に支持を求め、マスコミもそのことに対するチェック機能を果たせず、地滑り的な選挙結果となったことです。

民主政治には牽制機能必要
 アメリカのブッシュ大統領が「テロとの戦い」一本槍で、やはりイラク問題を含めた政策全般には説明不足のまま再選を果たしたのと似ています。これは「民主主義」にとって危険な状態なのではないかと心配しています。
岩見 これからの小泉さんに注文をつけると…。
河野 改革はちゃんと実行してもらわなければ困る。それと「行き当たりばったり」のようなことはやめてもらわなければ。
 例えば総理が議員年金「廃止」を指示したと言われる問題についてですが、各党間の話し合いですでに「廃止」の方向は決まっていたのです。
 国庫負担をいかに減らすか、すでに受給している方々の権利をどう守るかという具体的な話を、各党内の世代間の意見対立という微妙な問題を背景に苦労して調整している最中にトップダウンの指示が出れば、現場は「何だ」ということになる。
 靖国神社参拝の問題についても、ご本人は「中国や韓国が問題にする方がおかしい」という強い信念を持っておられるようですが、これが日中関係、日韓関係を阻害し、結果としてわが国の外交戦略展開の足かせになっている「現実」を直視してもらわなければ。

ブッシュ政権変調の兆し
岩見 外交戦略不在を指摘する声は、ずっとありますね。ところでハリケーンへの対応が後手に回ったのをはじめ、米ブッシュ政権が変調を来しているようですが。
河野 イラク撤退論の高まり、機密のリーク問題でホワイトハウス高官の起訴・辞任があり、最高裁判事の指名撤回なども重なっています。これまでで最高の不支持率58パーセントは結構高い数字です。
岩見 しかし政権基盤が揺らぐところまではいかんでしょうね。
河野 チェイニー副大統領のリビー首席補佐官が起訴された事件は、イラクの核疑惑を強く否定した元外交官の戦争批判を封じるために「夫人がCIA要員」という国家機密をリークしたわけですから「イラク戦争」が政権のアキレス腱になってきていることが判ります。
 二期目のレーガン政権のように人事刷新で事態を乗り切れるかどうか。政権「変調」となれば小泉政権にも影響が避けられないでしょう。 (10月26日対談)


衆院議長公邸応接室で